半田国際交流協会
Handa International Association


 

メンカン便り・最終便

※ メンカン=ゾンカ語で「病院」

この春、ブータン国立伝統医学校から校長と教員の2名がモンゴル共和国にある伝統医学大学院へ、また国立伝統医学研究所所長が経営学修士修得のためオーストラリアへと旅立つ。入れ替わりで国立伝統病院副院長が経営学修士コースを終えたタイから帰国した。

学費はすべてブータン政府が捻出する公務員の国費留学。出世への近道とはいえ、数年間を家族と離れ勉学に励む。辞令があれば子供のいる女性でも数年の間わが子と離れて海外へ留学に行くという話も少なくはない。慣れない海外での生活。

日本の開国期には新渡戸稲造博士がその著書の中で、日本人の精神である武士道を日本に咲く固有の花「桜」に例えた。ここではブータン人自身が国際的に見れば、ヒマラヤに咲く固有の花「ブルーポピー(ブータン国花)」的繊細な存在。海外での苦労と努力が想像される。 かくして、さまざまな思いを旨に勉学に励み、帰国後はブータン政府の要職につき活躍してゆく。

上述の伝統医学院スタッフたちも近い将来、伝統医学院の改革の中心を担っていくことになっている。国立伝統医学校では大学の枠組みのなか大学院コースを創設しブータン伝統医学の学術向上を図る。また近年、病院での処方薬以外に一般向けの商品開発をすすめる伝統医学研究所は、保健省からの独立民営化にむけた取り組みを進めてゆく。

そして伝統医学院の柱ともいえる国立伝統病院の方はというと、実は現在のところ大きな改革案をうちだしていない。他の国の伝統医学の歴史が歩んできたような、伝統医学の長所である機能論を置き去りにして、西洋医学的システムのみを導入していくといった取り組みが懸念される。

彼ら留学生たちには、海外での見聞をもとに伝統医学の長所を西洋医学中心の医療現場で取り入れていくというような、世界の潮流になりつつある統合医学を目指した取り組みに期待する。
ブータンに来て4年の歳月が過ぎた。国のコンセプト国民総幸福量(GNH)に代表されるような国のユニークなシステムに惹かれ、単身ブータンに足を運びそして居ついた。はたして、これらのことはどれだけ吸収できたであろうか。実際に肌で得てきたものは大きい。

国が推進する医療費無料の制度の中に身をおくことで医療者の原点でもある「仁術」の世界に立ち返らせてくれた。国が伝統医を保護しているという数少ない国である。伝統医と人々との距離感もすばらしい。相談事の多くは身分の高い僧侶に救いを求めることが多いが、伝統医は特に健康に関して気軽に話せる村の身近な存在。日本で言えばマンガの「一休さん」に登場した「和尚さんと村人たち」といった関係だろうか。

思えば、日本で他の先進国に比べ馴染みのカウンセラーという職業が圧倒的に少ないのは、寺の請負制度が廃止された後にも、土地に根付いた地域密着型のほねつぎや鍼灸院といった、気軽に立ち寄ってはグチを話せるような病院の下請け的・医療類似施設の存在が大きいのかもしれない。

長い時間をかけて社会に根付いている日本の伝統医学(代替医療・補完医療)を、このような視点から見直してみるのも面白いのではないだろうか。医療費の面から見ても一般的に患者側からすれば、鍼灸治療等の自由診療に通えば、医療保険のつかえる病院よりも10倍の実費を払わなくてはならない、という感覚がある。

しかし実際、病院に通うと、それにかかる医療費の総額は「鍼灸治療などにかかる治療費の10倍の医療費がかかっている」とも言われている。保険制度は異なるが、アメリカでは50%を超える数の人たちが病院以外の施設でも治療を受けているという。

医療財政で苦しむ現在の日本。その危機からの脱出の答えは、私たちの社会に西洋医学が導入される前から伝わってきた「伝統医学」の復興にこそあるのかもしれない。

元 ブータン国立伝統医学院
高田忠典
04/19/2007

いつもメンカン便りを送ってくださり、ありがとうございました。
東京でのご活躍を心よりお祈り申し上げます。(HP管理者より)


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